http://www.mdn.co.jp/di/newstopics/38800/?rm=1
最近オフィスの移転をした、と書いた。
我々は本来少人数のスタートアップであり、リモートワークを採用していた。だからこそ本社はクラウドにあるとうそぶいていたが、人員追加やプロジェクトの多層化があり、物理的なオフィスが必要になったのだ。
最近、一個所で働くことの効用を説く論調をよく見かける。有名なところでは、米国Yahoo!のCEOであるマリッサ・メイヤーが在宅勤務を禁じて、エンジニアを含む全社員をオフィスに出社するように指示したり、Googleのエリック・シュミットが著書で24時間365日働きたくなるようなクリエイティブな環境を用意して、社員をオフィスに紐付けることの重要さを書いたりといった具合だ。
同時に、Netscapeの共同創業者であり、いまや飛ぶ鳥を落とす勢いのベンチャーキャピタルであるAndreessen Horowitzの共同創設者、マーク・アンドリーセン(ちなみに僕がもっとも憧れたベンチャーは、Netscapeだ)は、彼が得意とする嵐のような連続ツイートで、「豪華なオフィスに金をかけるスタートアップは潰れる」と警告を発している。
オフィスは必要だが、金をかけすぎるのはやめておけ。でも社員を惹きつけなければいけない、という一見矛盾する進言が話題を呼んでいるわけだが、どちらにしてもオフィスが論議を呼ぶだけの重要事項であることはまちがいない。
今回、我々が考慮した点をここで紹介することは、オフィスの移転や拡張を検討している方々の参考になると思うので、列挙していく。
1. 初期費用にお金をかけすぎない
まず移転において最重要に考えたことは、すぐに借りられることと、すぐに使えることだ。自分好みにオフィスを改築するのはこのうえなく楽しいが、お金と時間がかかる。
僕たち起業家が考えるべき最優先はプロダクトやサービスの仕様であって、オフィスのレイアウトではない。使い勝手のよい状態を最初からもっている物件を探すことが最優先だった。
結果として、広さや設備は、居抜きとはいわずとも最初から工事を必要としない状態の物件を探し出し、そこに落ち着いた。
2. 家具にお金をかけない
ほぼすべての什器は、IKEAとAmazon.co.jpで買った。高いものはなにひとつない。基本的なカラーは黒(カーペットが黒だから)で、強調したい差し色として赤と黄を入れている。
色というものは重要だと思う。赤は闘志や情熱を生み出すカラーだ。そして赤と黄は風水的にも重要とされる(僕は華人ビジネスパーソンと長く仕事してきたので、少し影響を受けている)。
3. クラウドフォンを採用
これは独立系クリエイティブエージェンシーを経営する友人のすすめで採用したのだが、NTTコミュニケーションズのSmart PBXを導入した。社内に固定電話を置くことなく、クラウド上のハブを介してスマートフォンにインストールしたアプリを使って通話する、IP電話システムだ。
通話可能になるまでに相当な手間と時間がかかり一時は導入を後悔したが、それは我々の環境だけに起因する問題だったかもしれない。ともあれ、固定電話を買わなくてすむのはコストカットになるし、いわゆるBYOD(Bring your own device:従業員が私物のモバイルデバイスを職場でビジネス用に使用すること)のスムースな実現になる。
4. 執務スペースはタイトに、リラクシングスペースは広めに
これはエリック・シュミットの著書を読む前に決めたレイアウトであることを前置きしたうえで(笑)、その教えにも即していることを強調しておきたい。
もともと撮影スタジオを設置する意向があったから、スタジオスペースを広く保ち(全体の30%くらいを占めている)、そこを社員が好きに使えるようにミニバー的なコーナーをつくっている。雑誌を読みコーヒーブレイクを取ることができる(ちなみに喫煙者のための小さなスペースもある)。
結果として、執務スペースは適度に狭くなった。すべての社員が独り言をすれば、それがほかの社員にも届く。互いに適度な干渉を得て、共鳴する距離だ。これによって新しいアイデアやヒントが生まれる。
リモートワークを続けてきたことで、社員には自律的な作業の習慣ができたが、今度は個々を物理的に紐付けることでネットワーク効果が生まれることを期待している。広くもないオフィスだけに、空間にメリハリをつけることが大事に思う。
5. 飲み物を(できれば食べ物も)無料で常備しておく
飲料水やコーヒーは常備して、いつでも好きに飲めるようにした。冷蔵庫や電子レンジも好きに使ってよい。特にコーヒーは喫茶店で飲むよりも美味しいものが必要だ。オフィスは8階なので、いちいちそうしたものを買いに行くのは最低でも5分はかかる。用意しておけば、そうしたロスもない。
このように、リモートワークからオフィスワークへの切り替えにあたって、我々が工夫し、心を配っていることを紹介した。今後数カ月もすれば、その効用を改めてご報告できると思う。